経営者に、聞く。LEADER INTERVIEW
地域とともに、走り続ける

PROFILE株式会社フクユ代表取締役松下 誠吾氏
“フクユさん”の愛称で親しまれる会社は、地域における福祉輸送のパイオニアだ。
阪神間のベッドタウンを活躍の舞台に、タクシー、バス事業を展開するフクユ。たった3台の車両から始まった会社は、いまやあらゆる人に移動の自由を与える。
地域と密接に関わり、ともに走る。そんな会社の現在地を経営者に問うた。
地域社会の血液としてできることを模索する
伊丹、宝塚、川西に暮らす人にとって「フクユさん」は身近な存在だ。1983年(昭和58)に設立されたフクユは、タクシー事業、乗合バス事業、貸切バス事業の三本柱で地域交通を支える。「交通は地域社会の血液だと考えています」と語るのは、2代目の松下誠吾社長。阪神間のベッドタウンを営業エリアとする同社の利用状況は、ビジネスユースよりも買い物や病院通いといったニーズが中心となっている。また、大都市中心部に比べて車社会としての性格が強いこともあり、自家用車を持たない交通弱者にとっての重要な移動手段でもある。地域の暮らしに寄り添うからこそ、円滑な移動によってコミュニティの活性化に寄与したいと願うからこそ、フクユの眼差しはおのずと家庭的で温かいサービスへと向けられるようになった。
フクユが価値判断の基準としているのは、乗客に「また利用したい」と感じてもらえるかどうかだ。
フクユカード
そのため、同業他社には見られないさまざまな試みに打って出てきた。たとえば、事前チャージで5%分の乗車料金が還元され、精算時にはポイントが付与されるフクユカードの導入が挙げられる。
65歳以上の利用者はさらに乗車料金が1割引になるシステムで、リピーター獲得に大きく貢献している。
メイン車両として幅広く活躍するJPN TAXI
また、ソフト面における取り組みも注目に値する。タクシーを単なる移動手段とはとらえないフクユでは、ドライバー教育を何より重視。ホスピタリティを学ぶ自社研修に加え、高齢者、障がい者、妊婦などに対して特別な接遇、あるいは介護が実施できるユニバーサルドライバー研修の修了者も多い。つまりはあらゆる人に快適で安心な移動空間を提供するのが、フクユに課せられた使命といえるのだ。
2015年にトップの座に就いた松下社長は、父が興した会社で社会人生活をスタートさせた叩き上げの人物。就任から約10年をかけ、ビジネスを拡大路線に乗せてきた。許認可事業であるタクシー事業は、業者ごとに保有できる車両の台数が限られる。そこで、M&Aという形で積極的に事業承継を実施。地域における雇用継続という文脈においても、少なからぬ功績を残している。
25名のオペレーターが、24時間365日体制で配車を支える無線配車室
一方で陣痛が始まった妊婦に24時間、365日体制で優先的に車両を手配する陣痛タクシーの導入、宝塚市の委託を受けたコミュニティバスの運行、貸切バス事業への進出というように、サービスの幅も拡充させてきた。「常にできることを考えている」という経営者の存在が、いまのフクユを形づくっているのだ。
移動困難者に光を当てて地元に根を張り巡らせる
GPS-AVM配車システムで、各車両の状況をリアルタイムに把握
2026年時点で130台のタクシーと200名のドライバーを抱えるまでになり、地域でも指折りのタクシー事業者に発展したフクユ。しかし、その歩みはわずか3台の車両による営業から始まった。当初の社名は阪神福祉観光輸送。「福祉」という言葉が表すように、身体障がい者や高齢者を対象とした福祉輸送を専門としていた。いまでこそ当たり前になった福祉輸送だが、80年代当時はまだまだニッチな領域。松下社長は「1981年(昭和56)が国際障害者年だったことから、タクシードライバーだった父は新たな活路を見出し、独立したと聞いています」と語る。創業者は地元の障がい者から生の声を聞き取り、ワンボックスカーを改造。リフトを設置し、車椅子に乗ったまま乗車できるよう車内には固定具も備えた。地域における福祉輸送のパイオニアは年を追うごとに車両の装備も充実させ、昭和から平成にかけて独自の改造を施したセダンタイプの車両を約30台導入。それまで以上に移動が困難な人の足として機能するようになった。
「フクユさん」の愛称もすっかり浸透し、1999年には正式に社名をフクユに変更。松下社長が家業に入ったのも同年の出来事だ。
入社からしばらくは自らハンドルを握り、乗降のサポートや玄関先までの荷物の持ち運びといった、フクユならではのサービスを実践した。利用者に対してできうる限りを尽くす一方では、ドライバーこそが会社の財産であることを身をもって感じ取った。
フクユに大きな転換点を与えたのは、小泉政権下の規制緩和だ。2002年に一般乗用旅客自動車運送事業への参入が容易になり、それまでの福祉輸送に加えて一般の利用者にもサービスを提供するようになった。保有車両も右肩上がりに増え、会社の規模は加速度的に拡大。組織が大きくなるにつれて、松下社長は父の考えを現場に伝える重要な役割を担うようになっていた。
信頼をエンジンに変えてできる限りのサービスを
各発注先から帰還し、静かに次の出番を待つ車両たち
2015年に父から経営のバトンを引き継いだ松下社長は、一人ひとりがサービス業のプロフェッショナルになることを経営の指針に据えた。併せて配車システムを刷新したり、女性ドライバーが働きやすい環境を整えたりと、時代背景の変化に合わせた施策も次々に打ち出してきた。
2017年に開始した陣痛タクシー事業は、地域の妊婦の声を取り入れたもの。助産師を迎えた講習を実施するなど、周到な準備の末にサービスは始まり、車内で出産した妊婦と子どもを無事に病院まで送り届けた例もあるという。
さらにコミュニティバス事業という新たなフィールドにも足を踏み入れる決断を下したが、そんな折、新型コロナウイルスが猛威を振るう。多くのタクシー事業者は国の補助金を活用するなどして営業を取りやめたが、松下社長は地域の足という責務を投げ出すことはせず、ドライバー全員を日勤に移行させ、万全の感染防止策を講じて運行を続けた。
松下 誠吾氏
「ドライバーを休ませることは簡単でしたが、ブランクが空いてしまうと感覚を取り戻すのはそう容易ではありません。きちんと仕事を確保することで離職を防ぎ、疫病下にあっても必要とされる移動の手立てを守ること。それが何よりの目的でした」と、経営者は当時を振り返る。社会が大きく揺らぐなかでも走り続ける道を選んだ結果、フクユのブランド価値はさらに向上することとなった。のちに伊丹市や宝塚市と災害輸送に関する協定を結ぶなど行政との関わりが強まったのも、この危機的状況を乗り越えた事実と無関係ではないだろう。
創業から40年強。フクユは祖業を大切にしつつも、常に時代の要請にフィットすることで進化を続けてきた。この春には貸切バス事業を立ち上げ、学生の送迎、幼稚園の遠足といった用途で堅調な滑り出しを見せる。
「野心はそれほどでもありませんが、堅実に一歩を踏み出したいですね」と松下社長。ひたすらに地域密着型の営業を貫き、積み上げてきた信頼をエンジンに、フクユはできることを着実に実践へと移し、走り続ける。
What is
ランランバス
地域が抱える切実な願いに応えるコミュニティバス
宝塚市からの委託を受け、フクユが運行するのがコミュニティバス・ランランバスだ。市内の月見山地区、長寿ガ丘地区は勾配が多く、高齢住民はかねて鉄道駅へのアクセスに困難を抱えていた。以前は別の事業者が運営していたが、経営難のために撤退。地域にとって念願だったコミュニティバスを復活させるべく、白羽の矢が立ったのが長らく信頼を積み重ねていたフクユだった。とはいえ、タクシー事業を専門にしていたフクユからすれば、バス事業は初めての挑戦。ドライバーの確保が最初の課題として立ちはだかったが、2019年に試験運行という形で事業をスタートさせた。この復活劇に地元は大いに沸いたといい、住民らはランランバスを守る会を結成。自治会単位で回数券を購入するケースも増えたほか、フクユ、住民、市が三位一体となり、地域交通を盛り上げるイベントを開催するまでになったという。2025年にはそれまで13人乗りだった車両を大型化し、20数名が乗車できるように。積み残しが出るほどだった利用状況を大幅に改善させた。松下社長は「運行区間のほとんどが坂なのでドアにかかる負担が大きく、毎年のメンテナンスがたいへんです」と笑うが、住民からすれば大事な移動手段になっていることは疑いの余地がない。ランランバスは、今後もフクユブランドを支えていく。
企業情報
株式会社フクユ
1983年(昭和58)設立のタクシー事業者。当初は阪神福祉観光輸送として福祉輸送に特化した事業を展開し、徐々に一般輸送やバス事業にもビジネスを拡大。現在は「地域密着型ユニバーサルタクシー」をモットーに掲げており、伊丹、宝塚、川西の地域の足として親しまれている。
[ 本社 ]
伊丹市池尻7-181
tel:072-777-2277
fax:072-778-2387
URL https://fukuyu.jp

沿革
- 1983年
- 阪神福祉観光輸送株式会社を設立し、福祉輸送事業を開始
- 1999年
- 阪神福祉観光輸送からフクユに商号変更
- 2012年
- ドライバー20名がユニバーサルドライバー研修を受講
- 2016年
- GPS-AVM配車システムを更新、IVR(自動配車システム)を導入
国土交通省より女性ドライバー応援企業に認定 - 2017年
- 経済産業省より健康経営優良法人に認定。陣痛タクシー事業を開始
- 2019年
- タクシー配車アプリ、バーコード決済サービスを導入。
宝塚市からの委託でランランバスの試験運行を開始 - 2020年
- 一般乗合運送事業者として事業認可取得、ランランバスの本格運行を開始
- 2021年
- 全車両に感染防止策として低濃度オゾン発生器を設置
- 2022年
- 伊丹市と災害時における輸送業務に関する協定を締結
- 2023年
- 宝塚市と災害時における輸送業務に関する協定を締結
- 2026年
- 貸切バス事業を開始

