経営者に、聞く。LEADER INTERVIEW
これからのペットと人の絆を

PROFILEラブリー・ペット商事株式会社代表取締役社長兵頭 正基氏
私たちに癒やしを与えてくれる存在として。
人生をともに歩むパートナーとして。
少子高齢化が不可逆的に進む現代、
ペットの役割はより大きくなっている。
成熟するペット産業のなかにあって、
人と動物の豊かな関わりを築き、
社会自体を豊かにすべく動く商社に、
半世紀に及ぶ歴史と未来を尋ねてみた。
戦後ペット文化の進展に つむがれたストーリー
軽トラック1台から始まった商いは、1000億円の売上をうかがうまでになった。ペットフード、ペットウェア、ペットトイ、リードなど、業界最大級の2万点ものアイテムを扱うのは、ラブリー・ペット商事だ。ペット用品の総合卸売商社は、前回の大阪万博が開催された1970年(昭和45)に創業。現会長で創業者の橋本馨氏は、もともと酒販業界にいた人物だったが、スーパーマーケットで酒類の販売が行われるようになり、先行きに不透明感を覚えたことから、犬に関わる仕事をしようと決意した。転身の直接的なきっかけになったのは、雑誌『愛犬の友』に掲載されていた「ドッグ・ボーイ」の募集広告。単身、東京に身を投じた橋本会長は犬の飼育施設の清掃、餌やり、トリミングと、犬にまつわるありとあらゆる業務をこなすことになる。そんななか、肌身に感じたのが犬に対する価値観の「東高西低」だった。

1993年から会社の歩みを見守ってきた「ラブ」
2代目社長の兵頭正基氏は言う。
「田園調布や下北沢といった富裕層が暮らす地域では、当時からすでにドッグフードが一般化していました。一方関西では、残飯を与えるのが当たり前の時代。あくまで犬は『番犬』、猫は『ねずみ捕り』の域を出ず、ペットやパートナーとしての認識を持たれていなかったのです」

そこに商機を見出した橋本会長は、生まれ故郷の尼崎に橋本商店としてドッグビューティサロンを開業。いまで言うトリミングサロンのはしりだったものの「犬の散髪」と笑われ、結果は鳴かず飛ばずだった。苦い経験を経て始めたのが、ドッグフードの販売。個人経営のペットショップや、狂犬病予防接種の注射済票が掲出された邸宅を地道に訪ね回り、ドッグフードを売ることに加えて飼い主のニーズを引き出すことにも注力した。生の声に耳を傾けるうちに、首輪やリードなど商品のラインアップも広がり、軽トラック、バン、2トントラックと、荷物の取り扱い量も増えていった。阪神間から京都、滋賀、和歌山、中四国と販路も拡大し、手積み、手売りの商売はわずか2年ほどの間に問屋としての体を成すようになる。

個人商店の法人化、合併、本社の大阪移転などを経て現在の商号を名乗るようになったのが、1975年(昭和50)のこと。「ラブリー」という言葉には単なる「かわいい」のみならず、「愛に満ちた」「心を癒やす」といった意味合いも込められた。会社が成長曲線を描くのと同時に、ペットは人間に愛や気づき、学びを与えてくれる存在へとその性格を変えていった。

ペットビジネスの変容が 組織をより強靭に変えた
1980年代に入ると、いよいよ列島を空前のペットブームが席巻するようになる。スーパーマーケットやホームセンターでもペット用品が扱われ、小鳥や鑑賞魚などが広く好まれるようになり、業界でいう「オールペット」の時代が到来した。さらにそれまで譲渡が当たり前だった犬猫に関しても、血統書付きの品種の飼育が目立ち始める。このようなペット産業の大型化は、必然的に専門の卸売商社を求めた。ラブリー・ペット商事は、西日本の小売店に照準を定めつつ、新たにペット業界に参入してきた業態にも柔軟に対応。地域ごとに商圏を持っていた中小の問屋が淘汰されるなか、着実に業績を伸ばして創業10年あまりで大手問屋と呼ばれるほどの地位を確立した。この間、東西におけるペット文化にも目立った格差は見受けられなくなった。

明るく開放的なオフィスで、 社員同士のコミュニケーションも活発に
裏を返せば、ビジネスの一層の拡大には地域密着型では、もはや頭打ちという状況が形成されてもいた。取引先であるペットショップもチェーン化が進み、全国規模での対応が欠かせなくなっていた。そこで橋本会長が打ち出したのが、人口のボリュームゾーンである東京・名古屋・大阪の三大都市圏をしっかり押さえ、全国展開への足掛かりにするということ。白羽の矢が立ったのが、営業畑で10年来にわたり辣腕を振るってきた兵頭社長だった。2006年、ラブリー・ペット商事は満を持して東京営業所を開設。商習慣のまったく異なる未知の領域に、兵頭社長はたった1人で切り込んだ。

物流センター・LLC東日本流山。需要に応じて柔軟に対応できる物流体制
「大阪と比べて、首都圏は約5倍の市場規模がある。こんなに売る先があるのかと驚きました。ただ、その分ライバルも多い。優秀な仲間を集め、東京での商売の仕方を整えていきました。当初はゼロに近かった売上も、数年で100億円規模に。新しく会社をつくる感覚に近いものがありました」
第二の創業とも呼べる東京進出の裏側では、経営体質強化に向けた取り組みも着々と進んでいた。

関連会社との連携から生まれる、多彩なオリジナル商品
多面的な経営を展開して 人とペットの絆を深める
ラブリー・ペット商事の強みは、卸売以外にも機能を有することだ。1988年(昭和63)創業の子会社・ペットプロジャパンでは、多種多様なオリジナル商品を開発。ペットショップやトリミングサロンから吸い上げたニーズを形にし、猫の運動不足解消と爪研ぎという2つの機能を一体化させた、キャットランニングマシンといったヒット商品を世に送り出している。もうひとつ特筆すべきが、ライバルに先んじてEC領域をカバーしたことだ。2014年に開設されたオンラインストア・PETポチッとは、BtoB商材を小ロット購入でき、いまでは会員数1万人超と中小のペットビジネスを支えるうえで不可欠な存在となった。

社員とペットの多彩な写真が並ぶ、あたたかなエントランス
そうして2021年、兵頭社長は経営の舵取りを担うことになる。社長になって最初に従業員に呼びかけたのは、半世紀におよぶ会社の歴史、会長の努力と継続に敬意を表することだった。
「『変化』を前面に出すと、過去を否定するような印象を与えてしまいます。そこで『アップデート』をしようと。伝統と革新の両方を大切に、経営を進めてきました」
新社長が誕生した時期は、折しも新型コロナウイルスが猛威を振るっていたころ。巣ごもり需要がペット産業にも波及し、「革新」への原資には困らなかった。

店頭シミュレーションや商談の場として活用される会議室
目立ったところではオフィス環境の改善、DXの推進、物流センターの増設といった策を次々に講じ、社内の意思決定システムも大幅に加速化させた。コロナ禍が落ち着くと、国内でも珍しい愛猫家向け展示会・Lovelyにゃんフェスタを開催。近年、犬に代わってペット業界を牽引する猫にフォーカスを当てた。BtoCの形で飼い主の声を吸い上げるのは、会社の創業当時を思わせるものがある。
「ペットはもちろん、飼い主や取引先、従業員にも愛ある姿勢で臨まないと」
就任から5年足らずで売上を1.5倍に伸ばした経営者だが、根本にある愛は創業者と変わらない。「人とペットの絆を深め、思いやりに満ちた社会を築く」という使命に向け、ラブリー・ペット商事はさらなる成長を続ける。
What is
小口から大量注文まで 中小ペットビジネスに応える
自社ECサイトを通じて、全国のお客さまへ確かな商品をスピーディにお届け

ラブリー・ペット商事が運営する、BtoBに特化したオンラインストア。会員数は約1万人を誇る。300社を超える仕入れ先から2万点もの商品を取り揃える一方、1点からの購入も可能で個人経営のペットショップはもちろん、トリミングサロン、動物病院といった小規模事業者も気軽に利用可能。大量注文にも対応する。こうした販売スタイルを確立できたのも、ホームセンターやスーパーマーケットといった大口顧客に依存するのではなく、相手方の規模を問わず流通チャネルを築き、少量多品種の販売にも長じていたからだ。過去の蓄積があってこそ、ブルーオーシャンで一歩先に出られたともいえよう。兵頭社長いわく「実物を手に取れないだけに、どういう写真が何枚必要か、どういう文章を掲載するかには特に頭を使っています。情報をいかにパッケージするかが重要ですね。メーカー機能があり、よそにはない自社製品をアピールできることもプラスに働きました」とのこと。実際、EC部門にスペシャリストを置くことで、この5年の間に売上は200億円以上伸長。また、近年は旅行業界や宿泊業界からの引き合いも増加傾向にある。「ペットと一緒の旅」が象徴するように、ペットが家族としての性格を強めるなか、ラブリー・ペット商事と顧客のつながりはより幅広いものになろうとしている。
企業情報
ラブリー・ペット商事株式会社
1970年(昭和45年)創業のペットフード、ペット用品などの総合卸売商社。北海道から九州まで日本全国に独自の物流ネットワークを敷き、人とペットの優しい関係の構築に邁進する。近年はメーカーとして自社製品開発にも注力。BtoBのECサイト・PETポチッとも運営する。
門真市松生町6-20
tel:06-6905-9700
fax:06-6905-9706
URL https://www.lovelypet.co.jp

沿革
- 1970年
- 橋本馨が橋本商店を創業、ドッグビューティサロンを開設。
のちに法人化を果たす - 1975年
- ラブリー・ペット商事に社名変更
- 1983年
- 本社を門真市向島に移転
- 1990年
- 本社を守口市梶町に移転
- 1991年
- 岡山市北区辰巳に岡山営業所を開設。
のちに移転、支店への昇格を果たす - 1995年
- 門真市向島に第2物流センターを開設。
その後も時流に合わせ、全国各地に相次いで物流センターを増設 - 1999年
- 本社を現在地に移転
- 2006年
- 関東エリアへの販路拡大のため、横浜市鶴見区に東京営業所を開設。
のちに東京都世田谷区、横浜市港北区に移転、支店へと昇格 - 2014年
- 年商200億円を突破
- 2019年
- 創業50周年記念式典を挙行
- 2021年
- 兵頭正基が代表取締役社長に、橋本馨が取締役会長に就任
- 2023年
- 展示会「Lovelyにゃんフェスタ in 横浜」を初開催
- 2024年
- 大阪市西成区に大阪南物流センター開設