経営者に、聞く。LEADER INTERVIEW
総合力を、さらなる競争力に
PROFILE栄興電機工業株式会社代表取締役会長小坂 圭一 氏
顧客の頼みとあれば、未開拓の領域にも物怖じしない。
攻めのスタンスで事業の足腰を鍛え上げ、時代の変化に即して柔軟にその姿を変えてきたのが、栄興電機工業株式会社を核とするEIKOグループだ。
機電一体のエンジニアリング集団として。
そして、ただものを売るだけではない技術商社として。
多軸経営を突き詰めた末に生まれた強みを、現代的な組織づくりに奔走する小坂圭一会長に問うた。
果敢な勝負師が築いた 機電一体の企業価値
「機電一体で暮らしやものづくりを支える、いわば便利屋。それが、我々の事業の中身です」
兵庫県立芸術文化センターでは、舞台照明の施工を担当
自社の来歴を立て板に水のごとく語るのは、栄興電機工業を率いる小坂圭一会長だ。公共施設をはじめとした電気工事業に加え、大型エンジン、発電機器の代理店としての顔も持つ同社は、プラントや水道施設の機械工事を手がける兄弟会社の栄興設備工業とともにEIKOグループを形成。創業以来、官公庁や大手メーカーを向こうにビジネスの裾野を広げることで成長してきた。電気工事に限ってみても、塚口さんさんタウン、阪急西宮ガーデンズ、兵庫県立芸術文化センターなど、私たちの暮らしに身近な施設において実績を残している。
小坂会長の父である道一氏と共同創業者の三木憲三氏は、ともに関西大学のボクシング部で切磋琢磨した盟友。国体の常連でもあった道一氏は大学卒業後も競技に打ち込み、小坂会長が切迫早産で生まれるその日も試合に臨むほどの熱の入れようだった。規格外の逸話も「いまとなっては笑い話」とどこ吹く風の息子は、のちに父とは異なる経営者像を志すことになる。
「父は競技と並行で電気屋の番頭としても働いており、その経験を活かして電気工事を請け負う栄興電機を興しました。とはいっても、創業当初は玉造にある知人宅の庭先に構えた掘っ建て小屋でのスタートでした」
1970年(昭和45)の日本万国博覧会では、会場の鉄鋼彫刻 を手がけた
阪神間における工場新設時の電気工事や修繕に端を発した栄興電機工業の歩み。発電機、変圧器などを仕入れていた流れで、ヤンマーディーゼルや愛知電機と特約を結んで商社機能を備えるのにも、そう時間はかからなかった。昭和も40年代に差しかかるころには、ある傾向がはっきりとする。修繕工事のふたを開けてみると、実際に不調を来していたのは機械系統というケースが頻発していたのだ。すかさず、ここに商機を見出した道一氏。門外漢でありながら、機械分野に打って出ることを決意した。
「電気と機械、両方に対応できればお客さんも便利やと。もっとも三木さんは『勝手にせえ』というスタンスで、大げんかになったそうですが(笑) 」
現場で培われた技術力は、やがて各種コンベアの製造と設置という新事業へと昇華され、1966年に栄興設備工業が分社化。既存技術の融合に長じたことで、ウィンナーから自動車部品まで、あらゆる大量生産の最前線に低コストかつ合理的な製造ラインを次々と投入。時代の求めに即応する姿勢は、グループ躍進の大きな牽引力になった。
総合力はそのままに “筋肉質” な組織へ
ニーズあるところに会社の未来がある―栄興設備工業の成功を受け、道一氏は制御盤や工業炉など、祖業とは異なる領域で関連会社の立ち上げに心血を注いだ。顧客の声に耳を傾け、機電一体からさらに踏み込んだ「便利屋」が先取りしたのは、いまでいうシナジー効果。昭和50年代、最大5社にまで膨らんだEIKOグループは、建機メーカー向けのロボット溶接ラインに代表される大型案件を受注するなど、その総合力を存分に発揮した。
かたや小坂会長は、猪突猛進で事業を膨らませる創業者の背中を追って関大に学び、その間には社長つきの運転手も務めて見聞を広めた。ヤンマーディーゼル勤務を経て家業に入り、栄興設備工業、栄興電機工業と相次いで経営を引き継いだのは2000年のことである。当時44歳の青年社長が真っ先に掲げたのは「筋肉質」な組織づくり。道一氏の拡大路線が、反面では「ぜい肉」を生んでいることを見抜いており、グループ運営の最適化の必要性を感じていたのだ。
一連の改革で象徴的なのが、社長就任以前から受注額が伸びつつあった上下水処理施設への集中投資。脱水汚泥の運搬に用いるコンベアの設計・製作に加え、大型排水ポンプ用のエンジンへの引き合いには、古巣のヤンマーディーゼルとのパイプが機能した。
「調達と設置の両方をまかなえるぶん、コストを抑えられる。ポンプメーカーにエンジンを納入する場合なら、中間業務もすべて代行できます。浮き沈みの激しい20年を耐え抜き、人に誇れる仕事を任されるようになったのも、多軸経営という基礎のおかげですね」
昨今の災害激甚化に伴うインフラ整備において、水道関連事業は栄興設備工業の売上の過半を占めるまでになった。栄興電機工業も民需から官需にシフト、技術商社としての色合いを強めた。EIKOグループは、刻々と変わる経済情勢にも順応できるしなやかな組織体に生まれ変わった。
持続可能な未来に向け 余白を残す経営を
現場を熟知した代理店は業界でも少ない
「周囲には『僕は70歳で死ぬから』と伝えているんです」
グループの来し方からその将来へと話題が移ると、小坂会長の口からぎょっとするようなセリフが飛び出した。言わずもがな、額面通りの意味合いではない。「いつトップが交代しても動じないように、常に考え続けてほしい」というのが真意だ。現に2019年には栄興電機工業の社長を弟の哲二氏に譲り、自らは会長に退いた。
目下の楽しみは妻や娘とのゴルフ。若いころは営業ツールのひとつに過ぎず、いまもスコアでは水を開けられていると自嘲するが、女性活躍や労働環境改善に目を向けるうえで重要な時間だ。出産・育児後の職場復帰支援に腐心し、尼崎市の男女共同参画推進事業者認定、SDGs宣言制定をはじめ、目に見える成果も残した。「娘だけ特別扱いするのは性に合わない」と、きちんと水平展開を図るところに経営者としての親心がにじむ。
生産拠点が移転しても、変わらぬ付き合いを続ける得意先も多い
「今後に向けた環境整備は当然の責任ですが、現時点で正解はわからない。だからこそ予測不能な局面に対応できる余白を残しておき、次の世代に軌道修正をかけてほしいんです。営業と現場の分業が確立した電機と、個人商店的な気風が残る設備という二面性を持つ我々が相乗効果を発揮するには、縄張り意識を超えた俯瞰的な物の見方が不可欠。多軸経営を進めていく以上、そこだけは強調しています」
就任当時の体重80キロから減量し、60代後半を迎えてもなおはつらつとした印象を感じさせる小坂会長。会社も自らも「シュッとさせた」というわけだ。早くから経済団体の要職を歴任してきた経歴も手伝ってか、その視線は自社のことだけでなく地域にも注がれる。
「尼崎に生まれ育った子を雇用し、尼崎に所帯を持ってもらう。さらにその子が尼崎で学び、地元に根を下ろす。そんな連鎖を支えるに足る地場産業であるために、子どもたちにこの街を好きになってもらうために、できることは率先してやっていきたいです」
親分肌が興した会社を、時代に即して栄えさせた小坂会長の思いは、これからのEIKOグループにも脈々と受け継がれるだろう。
エネルギーや環境の分野に、さらなる貢献が期待される
What is
EIKOグループの総合力
機電一体のシナジー効果で経営の足元をより盤石に
EIKOグループのルーツは高度経済成長期の工場営繕に見出せるが、世情の変化に合わせてその業容も移り変わってきた。なかでも大きな転機となったのは、1978年(昭和53)開業の塚口さんさんタウンの電気工事に携わったこと。小坂会長が「当時はまだ平屋だった」と語るかつての塚口駅舎の目前に、突如として出現した近代的な商業施設を画期に、電気工事部門は公共色の濃い案件への傾斜を強めていく。平成10年代初頭には公共投資抑制のあおりも受けたが、資材調達のボリュームを維持することで仕入額を維持し、そのぶんを民需に回して苦境を脱出。
ここ最近は都市計画道路園田西武庫線(御園工区・藻川工区)のアンダーパスにおける電気工事、西宮総合医療センター(仮称)の発電設備工事を受注するなど、堅調さが際立っている。この間、代理店業では自家消費型で送電ロスのないオンサイト発電、下水ガスエンジンなど環境配慮型の商材が目に見えて増加。他方では、取り扱い品目の少なさから淘汰される代理店もあった。新たなエネルギー需要に対応できる幅広いラインアップは、技術的なノウハウを有するEIKOグループへの信頼の表れとも言い換えられる。機電一体ゆえの引き出しの多さは、何かと付加価値が求められる今日の潮流に図らずもフィットしたのである。
企業情報
栄興電機工業株式会社
1957年(昭和32)創業。工場やビルの電気工事を基礎にしつつ、ヤンマーディーゼルと代理店契約を結ぶことで、いっそうの発展を見た。生産機械、搬送設備を手がける栄興設備工業との有機的な結びつきが強みで、機電一体の提案ができるエンジニアリング集団として顧客の信頼も厚い。
兵庫県尼崎市瓦宮1-9-15
TEL:06-6491-5301
FAX:06-6493-1051
沿革
- 1957年
- 栄興電機創業
- 1960年
- 栄興電機工業株式会社設立
- 1964年
- 尼崎市に新社屋を建設
- 1966年
- コンベア部門が独立、栄興設備工業株式会社設立
- 1969年
- 制御盤・配電盤部門が独立、
株式会社エイコーパネル設立 - 1972年
- 大阪府摂津市に栄興設備工業の新社屋を建設
- 1988年
- エイコーパネルを吸収合併
- 2000年
- 西脇市に栄興設備工業株式会社西脇工場を建設
- 2001年
- ISO9001認証取得
- 2010年
- 創立50周年を迎える
- 2022年
- SDGs宣言を制定