HOME経営者に、聞く職人に代わる、新たな“手”を
HOME経営者に、聞く職人に代わる、新たな“手”を

経営者に、聞く。LEADER INTERVIEW

職人に代わる、新たな“手”を

経営者に聞く 芳賀電機株式会社の芳賀 清氏

PROFILE芳賀電機株式会社代表取締役社長芳賀 清

職人の感覚頼みだった熟練の技を再現するのは、高度な制御が施されたロボットだ。

産業用ロボットの販売を手がける芳賀電機株式会社は、単なる商社の域を越えた自動化ソリューションを提供、半導体から自動車まで、数多の産業現場に貢献する。

その根底にあるのは「世の中のお役に立つ」という熱意。

手練れのエンジニア集団と手を携えて歩む芳賀清社長の言葉に、ものづくりの未来を見た。

用途に応じてロボットの『手』も多種多様に取り揃えている

用途に応じてロボットの『手』も多種多様に取り揃えている

空調技術の革新と歩調を合わせて発展

「職人に代わるロボットを送り出し、お客さまの困り事を解消する。そこにAIに代表される新技術を導入し、気温や湿度といった環境条件に合わせて対応を変える手仕事を再現して、世の中のお役に立つ。それが私たち芳賀電機の使命だと考えています」

そう語るのは芳賀電機株式会社の5代目、芳賀清社長だ。同社は産業用ロボットで国際的なシェアを誇る安川電機の老舗代理店。しかし、ただの商社というわけではない。創業時から技術力に長じており、近年では人手不足にあえぐ製造や物流の現場に向け、省力化・効率化をもたらすロボットシステムを独自に構築し、企業価値を高めている。

製品を見分ける画像処理技術とAIを組み合わせた例は珍しい

製品を見分ける画像処理技術とAIを組み合わせた例は珍しい

芳賀電機の創業は1934年。安川電機の技術職として、大阪支店の立ち上げに参画した芳賀社長の祖父が代理店の権利を得て独立、関西を拠点にモーターの販売を始めたことが起こりだ。戦中、そして戦後の混乱期を乗り越えた同社が大きく飛躍する画期となったのは、現在のダイキン工業にモーターの納入を開始したこと。今日に至るまで続く信頼関係の出発点は、ダイキンが大阪金属工業所を名乗っていた時代にまでさかのぼる。

1970年に千里丘陵で日本万国博覧会が開かれると、芳賀電機にさらなる追い風が吹く。会場のパビリオンに国内有数の空調機器メーカーがこぞって自社製品を投入し、さながら業務用エアコンの見本市といった状況のなか、期間中唯一故障しなかったのがダイキン製品だったのだ。このことが評判を呼び、同社は競合に先んじて省エネインバータエアコンの量産体制に入る。無論、安川電機も空前のインバータ需要に沸いたが、規格品の大規模生産は初めてとあって、創業以来の優れたエンジニア集団を擁する芳賀電機との二人三脚で開発が進められた。試行錯誤の末に生み出されたインバータが晴れて採用されると、業績は右肩上がりの様相を呈する。

ダイキンとの取り引きが拡大するかたわらで、芳賀電機はガラスプラントの圧延ライン、半導体のチップマウンター向けモーターの開発をはじめとした新事業にも次々と着手。エンジニアリング部門を分社化し、機能強化と販路開拓を図るなど矢継ぎ早に経営体制を固めていった。時は1970年代半ば。貸事務所を転々としていた同社が事務所を構えた当時、5階の高さから大阪城の天守閣が見渡せる田園風景が広がっていたという江坂の街も、都心部へのアクセスが良好な事業用地へとその性格を変えようとしていた。

無防備な父の姿に事業継承を決意

スマートセルファクトリー

先代のいとこまで、4人の経営者の背中を見て育った芳賀社長。その間、芳賀電機は日本全国に営業エリアを広げ、中国に現地法人を設立するまでに成長していたが、幼少期に社長の息子であることを理由にからかわれた経験もあり、最初の就職先に選んだのは銀行だった。ところがある日、父の意外な姿を目にしたことで感情に変化が表れる。

「仕事を終えて最寄駅のホームに降りると、目の前をよろよろ歩くおじいさんがいたんです。なんの気なしに追い抜いてみると、実は父で。家で見せる姿とはまったく違い、こうも年を取っていたのかと実感して、その日の晩に『勉強させてほしい』と頼み込みました」

高校までハンドボールに打ち込んだという芳賀社長

高校までハンドボールに打ち込んだという芳賀社長

それからわずか1週間後、約3年間勤めた銀行を退職した芳賀社長の怒涛の日々が始まりを告げる。まずは家業のイロハを知るべく安川電機に出向すると、本社のある福岡、次いで東京、さらにはアメリカでの勤務を経験。営業や管理の実務を習得する一方で、ビジネスパートナーと公私を問わぬ交流を深めて現在にまで続く人脈を構築、経営者に欠かせない社交性を身につけた。30歳のときに帰国して芳賀電機に戻るも、最初は東京勤務。自ら「遠回り」と語るキャリアを経て2013年、43歳にして社長を継ぐことになった。

これまでと同じではいけない。かといって、技術商社として築き上げた財産をないがしろにもできない。顧客の困り事を解消するのが自社の本懐だ。となれば、芳賀電機の信頼を下支えしてきた精鋭エンジニアの力を借り、より付加価値の高い製品とフォロー体制を築く ― 歩むべき道筋は、おのずから見えてきた。

「右から左に製品を流すだけでは、どこで買っても変わりません。ましてやいまはネットでも購買が可能です。そこで開発したのが、スマートセルファクトリーでした」

人口減少時代に即した先進的な自動化ラインが、いよいよ産声を上げようとしていた。

スマートセルスポット

スマートセルスポット

職人技を精緻(せいち)に再現し明日のものづくりへ

直感的な操作を可能にすべく、UIの改善にも力が注がれる

直感的な操作を可能にすべく、UIの改善にも力が注がれる

「生産工程における人ひとり分の作業工程の自動化」を旗印に開発されたスマートセルファクトリーは、芳賀社長が社長に就任して4年ほどが経った2017年に実用化。22台ものカメラ情報をもとに、角度や方向を問わずあらゆる部品を見分けるVISIONシステムを産業用ロボットに搭載し、そこにAIの学習機能を組み合わせて従来必要だった事前のプログラミングを不要とした。これにより製品の細かな仕様変更にも柔軟に対応できるようになったと同時に、ネジ締め、コンデンサの取り付け、研磨など、かつては職人の微妙な感覚をもとに行われてきた作業を、たった1台のロボットが高精度でこなせるように。まさに芳賀電機がかねて培ってきた自動化技術を結集させたシステムだった。

大手との取り引きで培ったノウハウは中小顧客にも活用されている

ソフト面の改革にも余念がない。よりスピーディーな顧客対応を目的に、営業技術部を新設。セールスエンジニアが客先に出向き、その場でシステム構築やメンテナンスを行える体制を整えた。「自分は営業畑なので、技術のみなさんには教えてもらうことばかり」と謙遜する芳賀社長だが、こうした発想が生まれるのも自社の果たすべき役割を冷静に見通す目があるからだろう。吹田に根を下ろして育ててもらったとの実感から、市内における大学スポーツ支援など、これまで未着手だった地域活動にも力を入れる。

「ここ最近は技術商社としての認知度が増し、芳賀ブランドが確立されてきた感があります。とすれば、次はより多くの人に使ってほしい。費用面からロボットの導入は容易ではないと考えられがちだからこそ、リースやシェアなど所有のリスクを伴わない仕組みづくりに取り組みたいんです」

雇用環境が改善してきたとはいえ、人口減少の加速は目に見えている。それを受けて高まりつつある省人化ニーズをとらえ、ロボットをより身近なパートナーに変える。その先にあるのは、この国が培ってきた産業の持続可能性を支える未来だ。6歳と2歳、遊び盛りの二児の父は、ビジネスと家庭の両にらみでこれからのものづくりの形を提示していく。

芳賀ブランド

営業と開発が地続きなのが強みだ

営業と開発が地続きなのが強みだ

What is

スマートセルファクトリー

芳賀電機の自動化技術を結集させた「新しい職人」

スマートセルファクトリー

モーターを正確に制御するモーションコントロール、複数の3Dカメラが対象物を捕捉するVISIONシステムという芳賀電機の基幹技術に、AIによるディープラーニングを加えたロボットシステム。エクセルの画面上で簡単に動作指示、製品データ入力が可能になるなど操作性に優れており、半導体や自動車といった先端分野はもとより、不定形な素材を扱う食品分野への活用も期待されている。本社に隣接するショールーム・スマートセルスポットでは実機による各種テストが可能。常駐エンジニアのもと、汎用機を用いて顧客の潜在的なニーズを掘り起こしたうえで、さまざまなカスタマイズを施した製品を送り出す体制を整えている。

開発にあたっては、長らく独立的な経営を続けてきたシステムエンジニアリング系の関連会社・ケー・デー・イーが深く関与。芳賀社長の代になってそれまでの方針を転換し、2017年に実用化が果たされた。先駆的な製品が誕生したのも、高度な画像処理を駆使して小ロット・多品種に対応する高速ピッキングシステム・スマートピッカーをはじめとした先行技術の積み重ねがあったからこそ。熟練作業者に取って代わる点、生産の季節変動に対応できる点が評価され、2017年には経済産業省の異分野連携新事業分野開拓計画への指定も受けた。

企業情報

芳賀電機株式会社

1934年(昭和9)創業のメカトロ技術商社。株式会社安川電機の代理店として長年磨き上げてきたエンジニアリング力を武器に、産業用ロボットの販売および開発を行っている。他方、再生可能エネルギー関連製品、省エネ空調設備など、環境製品の提案・販売にも積極的な姿勢を見せる。

大阪府吹田市江坂町1-21-7
tel:06-6385-3831
fax:06-6385-8497

URL https://www.haga.co.jp

芳賀電機株式会社

沿革

1934年
芳賀商店設立
1958年
資本金200万円で芳賀電機株式会社設立
1968年
東京営業所開設
1974年
本社事務所新築
1986年
東京営業所を支店に昇格
1997年
上海芳賀電気有限公司設立
2006年
ISO14001:2004認証取得
2007年
芳賀電気(上海)有限公司設立
[ 現・芳金電機(上海)有限公司 ]
2017年
スマートセルファクトリー実用化
2018年
ショールーム「スマートセルスポット」開設
2022年
東京支店 狭山LABO開設
「経営者に、聞く。」一覧へ戻る